師纂
生没年:?~景元5年(264)
所属:魏
生まれ:?
鄧艾(トウガイ)の側近に師纂(シサン)なる人物がいますが、まあこの人も死に際を見るとアレなタイプだったようで……。
師纂は言ってしまえば取るに足らないしょーもないその他大勢のひとりですが、鄧艾の人物像や取り巻く環境を鑑みるための材料としてはなかなかに見どころのある人物なので、字数は少なくなりますが彼に関する記述を追ってみようと思います。
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鄧艾軍の性悪軍官
師纂の名が挙がったのは、蜀滅亡の際、鄧艾が無茶苦茶なルートでの蜀軍奇襲を成功させた時の事。
要害の剣閣(ケンカク)をスルーして蜀の内部に軍を進めることに成功した鄧艾でしたが、この時の鄧艾軍は無理な進軍による疲弊と輸送困難による軍備不足でボロボロの状態。
対して蜀軍は予備戦力として首都防衛の宿営隊を残しており、諸葛瞻(ショカツセン)がその部隊の指揮を執っていました。
姜維(キョウイ)らの主力部隊を無視できた鄧艾軍でしたが諸葛瞻の部隊はさすがにスルー出来ず、両軍はついに蜀の首都・成都にほど近い綿竹(メンチク)で激突。体力、気力、装備と何もかもが不足していた鄧艾軍は万全な状態の諸葛瞻との戦闘を余儀なくされ、一度攻略できずに撃退されてしまいます。
この時に鄧艾軍の指揮を執っていたのが、鄧艾の息子の鄧忠(トウチュウ)、そして鄧艾軍の司馬(シバ:指揮官)をやっていた師纂の2人でした。
鄧忠と師纂は敗走し、鄧艾にすぐに報告します。
「駄目だ……蜀軍は強い……!」
しかし、鄧艾軍も退路らしい退路も確保せず敵陣に出た身。勝てば大手柄、負ければ死という博打のような立ち位置におり、鄧艾の頭には諸葛瞻の撃破以外の選択肢はありませんでした。
鄧艾は2人の報告をスルーするどころか、大激怒。
「天下をかけた一戦に無理もクソもあるか!」と散々に怒鳴り散らし、挙句鄧忠と師纂の2人をまとめて処刑しようとすらしたのです。
結果として逃げる先が無くなった2人は、死ぬ思いで持ち場に戻って文字通り死ぬ気で諸葛瞻の軍勢と再戦。将兵の必死の戦いによって、諸葛瞻の軍勢は壊滅し、鄧艾軍は蜀の征討に成功という大手柄を挙げることに成功しました。
しかしこの師纂、これはこれでまた鄧艾とは違った意味(というか正統派)で嫌な奴だったようで……この一件は彼の心に大きな恨みを植え付けたのでした。
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周囲「あいつクソや」
さて、こうして蜀征討の大手柄を挙げた鄧艾でしたが、蜀を制圧して以降は手柄を誇るあまり完全に高慢ちきな性格になってしまった様子。
おまけに中央に対しても独断専行を行うと宣言するような報告・提言を行い、とうとう周囲からも睨まれるような存在になってしまいました。
そしてついに、鍾会(ショウカイ)ら鄧艾の政敵ともいえる人物らがこぞって鄧艾の叛意を示唆し、反逆罪にあたると讒言。これを好機と見た師纂も讒言に乗っかかり、自身の上官であり恨みの対象である鄧艾を反逆者として引きずりおろすことに成功しました。
その後師纂は三国志本文から姿を消しますが……『世語』及び晋の時代の歴史書である『晋書』では師纂の顛末が記載されています。
鄧艾が反逆罪で捕まった後、彼を讒言した主犯のひとりである鍾会は鄧艾と代わる形で益州入り。なんと魏に反旗を翻そうと画策し、兵士たちの叛逆を招いて横死。
鄧艾軍の兵士たちは鍾会の反乱未遂で起きた混乱を利用して鄧艾の身柄を奪い返しましたが、なんと衛瓘(エイカン)の手配により鄧艾討伐の軍が発足。鄧艾は討伐隊の追撃を受けて死んでしまいました。
さて、今回の主役である師纂ですが、どうやらこの鄧艾救出や討伐隊による追撃といったゴタゴタの中でそのまま戦死してしまったようです。
しかも世語には「強情で恩賞をケチる奴だったせいで、遺体の損傷はとんでもないことになっていた」とすら書かれる始末。世語は話半分程度の信憑性残念な書物ですが、それでもやはりこう書かれてしまうのは仕方のない事でしょう。
師纂を殺したのは鄧艾軍の兵か、あるいは鄧艾討伐隊か……どちらにしても、ある意味鄧艾の副官らしい人物……だったのかもしれません。
ちなみに鄧艾は後に晋の名臣として命を落とすことになる衛瓘すらもビビッてさっさと殺そうとしたという旨が書かれており、(史書には衛瓘が小悪党であるという記述があるものの)やはり鄧艾は報復をやりかねない人物として周囲の目に映っていた可能性すらあります。
師纂を副官にし、そして完全に恨まれることになった鄧艾。希代の名将のちょっと意外な欠点を象徴する人物として、彼の存在に注目してみるのも面白いかもしれませんね。
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