棗祗
生没年:?~?
所属:魏
生まれ:豫洲潁川郡
棗祗(ソウシ)という人物をご存知の方は、おそらくそんなにいらっしゃらないのではないでしょうか。
というのも、彼はマイナーの中のドマイナー。立伝なんてされる事もなく、同じくマイナーな人物である任峻(ジンシュン)の伝をはじめたまーに名前に上がるだけ。曹操(ソウソウ)の名が上がる前にさっさと亡くなってしまったため、活躍期間がほんのわずかな間に留まってしまったという不幸の人です。
しかし、棗祗は屯田政策を強固に主張し、数多の反対に対してもとことんまで食い下がった結果曹操軍の懐事情を一気に改善するきっかけを作ったという、偉大な先達なのです。
今回は、そんな棗祗の記述を追っていきましょう。
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忠烈なる県令閣下
棗祗という人物が何者なのかは史書からは読み取れませんが、やはりひとかどの……いや、それ以上の人物だった可能性も大いにあると言ってよいかもしれません。
棗祗の死後数年が経って発行された曹操の命令書を見るに、おそらく彼は曹操が挙兵した際のスタートメンバーの一人。曹操の苦境を共に戦い抜いた仲間の一人であり、後に大勢力となった袁紹(エンショウ)のヘッドハンティングを断るほど曹操に入れ込んでいたようです。
そんな棗祗は、やがて曹操が兗州(エンシュウ)に拠って立つ群雄に成長すると、東阿(トウア)県の県令(ケンレイ:大きな県のトップ)に就任。地方を治める臣下の一人として曹操を支えるようになりました。
が、興平元年(194)曹操が遠征に出ていた隙をついて、張邈(チョウバク)、陳宮(チンキュウ)らが謀反。猛将・呂布(リョフ)を主に迎え、兗州総出で曹操の元を離反したのです。
この時曹操の味方として残留したのは、鄄(ケン)、范(ハン)、そして棗祗の治める東阿の3城のみ。兗州は九割方呂布の手に落ち、3城のうち鄄は攻め込まれて危険な状態。曹操軍は未曽有ともいえる危機を迎えたのでした。
棗祗はそんな中、至急集まれる兵を集めて厳戒態勢を敷き、守りを固めていつでも呂布軍に応戦できるようにしたのです。
東阿はそんな棗祗の素早い対応と、そして慌てて駆けつけた程昱(テイイク)の策謀によって無傷の状態を保全。曹操が後に巻き返しを行うのに少なからず貢献したのでした。
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屯田やりましょう、屯田!
さて、そんな未曽有の危機を乗り切ってしばらく快進撃を続けた曹操軍でしたが、ある重大な問題を抱えていました。
それが、急速な勢力拡張による食糧難。
当時は地球寒冷化の影響で不作ともいわれており、実際問題としてどの群雄も食糧問題には大きな懸念を抱いていたのです。
その重大さたるや、兵糧の予算は一年分ともたず、群雄の多くの収入源は略奪によるものばかり。挙句、糧秣不足によって自滅する群雄すら多く出るレベルだったとか。
棗祗は建安元年(196)、満を持して韓浩(カンコウ)らと共に屯田性を草案。
そして屯田が設置されることになるにあたって、その輸送方法について棗祗が意見を具申します。
というのも、当初の案では学者たちの意見に従って「一ヶ所に屯田を設置し、牛を輸送用に飼育する」というものでした。
しかし棗祗は「牛ではその数相当の量しか穀物を運べず豊作に対応できませんし、また水害や旱魃においても面倒事が生じます」と断固反対。屯田を分けて各地に展開させることを強く訴えかけました。
曹操は最初は棗祗の案を却下したものの強く主張し、ついには彼の意見に反応して反対意見まで上奏する始末で、曹操はたまらず荀彧(ジュンイク)にも相談。二人して頭を悩ませたと言われています。
しかしそれでも棗祗はうるさいくらいに屯田の分割を訴え続け、ついに曹操の心をへし折って「YES」の言葉を引き出すことに成功したのでした。
かくして屯田は任峻の手によって次々とその数を増やしていき、数年かけて曹操軍の兵糧備蓄は他の軍を圧倒。曹操軍躍進の起爆剤となったのです。
その後、時期は不明ですが棗祗は不幸にも早世。彼の子孫らもまた有能で、後世にも名を残したとか。
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屯田ゴリ押しマン
立伝されていないという事は当然陳寿からも評を受けることはありませんでしたが、この通り棗祗のしつこいくらいのゴリ押しは大いに曹操軍に役に立つことになったのです。
曹操がいうには、その天分は忠義有能。能力と忠誠心を併せ持つ、けっこうな傑物でした。おそらく、もし長生きできたのならば、それこそ立伝も不可能ではなかったことでしょう。
また、彼の功績に対して、曹操はこのようにも述べています。
「郡太守の官位を寄贈したが、こんなもので功績に報いたとは思えない。棗祗は本来、列侯として領地を与えるくらいが当然の報いと言えるが、結局は私のせいでここまで死後数年にわたりその期間を引き延ばしてしまった」
曹操はこの文書の中で棗祗の息子を列侯に取り立てており、「その不朽の事業を評し、棗祗を祀る」という言葉で命令文を〆ています。
そんな棗祗の最期の役職は、陳留(チンリュウ)太守。これは裏切ったとはいえ曹操のマブダチである張邈の元領地であり、なにか特別な意図があったと取れなくもありません。
どうにも早世したのが惜しまれる、そんな人物です。
ちなみに『文士伝』によると、棗祗の元の名は棘(キョク)。しかし曹操が兗州動乱を乗り切った時に、苗字を棗と改めたとか。
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