関羽撃退
建安24年(219)、荊州にて曹操軍の隙を伺っていた関羽がいよいよ北上し、襄陽(ジョウヨウ)、樊城(ハンジョウ)といった曹操軍の拠点を包囲しました。
指揮官である曹仁は兵数士気ともに劣勢に立たされ、救援に向かった于禁(ウキン)らも軍勢が水没したことで戦う前から敗北。魏の荊州戦線は、未曽有の危機に陥ったのです。
曹操はこの窮地に際し、各地から援軍を編制。徐晃も、その大規模救援軍の先駆けとして関羽撃退の任務に就きました。
徐晃はいち早く戦場に到着しましたが、この時連れていた兵は大半が新兵ばかりで練度が低く、迂闊に関羽にぶつかるのは危険な状態だったのです。
そこで徐晃は、陽陵陂(ヨウリョウハ)まで進むと一度軍を止め、味方を待つことに。
そして曹操からの援軍と合流すると、満を持して関羽との戦いに臨みます。
まず偃城(エンジョウ)を拠点にしている敵の先陣部隊を、背後に見せかけの陣を作って揺さぶりをかけて撤退させると城を確保。
偃城を中心に左右に陣を展開して徐々に関羽を肉薄し、更なる援軍が合流したところで、四冢(シチョウ)と囲頭(イトウ)にある関羽軍の陣営を利用して、関羽をおびき寄せることにしました。
徐晃はまず敵軍に伝わるように囲頭の陣営攻撃を通達。これによって敵軍の目が囲頭に向いたところで、ノーマークだった四冢の陣営に対して総攻撃を仕掛けたのです。
これを見過ごせなくなった関羽は、徐晃の狙い通り5千の軍勢を率いて四冢救援に出陣。
関羽が来たのを確認した徐晃は偽の退却で関羽軍を自陣深くまで誘導し、関羽軍を包囲して大破してしまったのです。
徐晃の関羽撃破によって、荊州攻撃を行っていた関羽軍は意気消沈。これによって荊州は無事に守られ、関羽も背後から迫った孫権軍によって討ち取られたのです。
この働きには、曹操もご満悦。「わしの経験上にも、ましてや歴史書の中でさえ、これほどの偉業を成し遂げた者はおらん! 孫子や司馬穰苴といった兵法家を超えた」と絶賛し、わざわざ自ら出向いて祝勝会を開いたのです。
またこの時も徐晃の軍だけはまとまりを乱さなかったことから、「周亜夫の風格あり」と徐晃の軍事統率力を賞賛したのです。
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静かなる晩年
曹操が亡くなって曹丕(ソウヒ)が跡を継ぐと、徐晃は右将軍(ウショウグン)に昇進し、逯郷侯(タイキョウコウ)、魏帝国を打ち立てると楊侯(ヨウコウ)に爵位を上げて領地を加増。
上庸(ジョウヨウ)にて劉備軍を打ち破ると、今度は対劉備の前線である陽平(ヨウヘイ)を鎮護させ、陽平侯に転封しました。
その後曹丕が亡くなって曹叡(ソウエイ)が新たな帝になると、今度は孫権が世代交代の混乱を狙って侵攻。徐晃は諸葛瑾(ショカツキン)と一戦交え、これを撃退。その後領地を加増され、3100戸の大所帯を抱えることになりました。
が、徐晃はほどなくして病に侵され、太和元年(227)に死去。本人の遺言で普段着のまま葬られ、息子の徐蓋(ジョガイ)が跡を継ぎました。
諡は壮侯(ソウコウ)。壮という字は勇ましいとかそういう意味なのですが……もしかして案外イケイケな性格だったのでしょうか?
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人物評
三国志演義では大斧を振り回す猛将で、強いけどイマイチパッとしない存在。ですが、正史における徐晃は障害負けなし、猛将というよりは知性派の名将のようなイメージすらありますね。
三国志を編纂した陳寿は、彼をこう評しています。
つつましやか、慎重な性格で、戦場では常に遠くまで斥候を出し、負けた時の敗走ルートまで頭に入れてから戦った。
一方で敗走する敵を追う時は迷いがなく迅速で、兵たちは食事の暇もないほどだった。
陳寿は同時に、「張遼、楽進、于禁、張郃、徐晃の5人が魏でもっともすぐれた将軍たちだった」と巻末で述べています。
張遼のようなわけのわからん最強伝説を立てるような人物ではなく、于禁のようにネタにされる失態のない、堅実を地で行くと。
それ故に具体的な伝説はないものの、それでも着実にできる所から戦果を上げていく人物だったのでしょうね。
また、曹操には非常に厚い忠誠心を向けていたようで、本人は心中をこう漏らしていたと言われています。
「過去の英雄や名将はいい主君に巡り合えなかったが、私はその点幸運だった。個人の名声など気にする必要は無い。全力を尽くし、殿のために功績を上げねばならぬ」
……何だこの絵に描いたような忠臣は。
とにかく、曹操に対する思いは並大抵ではなかったことが伺えますね。
徐晃はこの言葉通り私生活でも不要な交遊は広げず、派閥に属したりして後ろ盾を持つこともしなかったのです。
とにかくやる事成すこと無難で確実、やらせれば必ず小さくない功績を上げ、失敗することのない上に忠誠心も厚いという超人級のエリート軍人、徐晃。
決して華のある人物ではありませんが、仮に現代に存在していたら、日本人を魅了してやまない人物だったのではないかなと思います。