孫邵 長緒
生没年:延熹6年(163)~黄武4年(225)
所属:呉
生まれ:青州北海郡
孫邵(ソンショウ)、字は長緒(チョウショ)。呉の初代丞相、つまり現代日本に言い換えると、呉が成立してから一番最初の内閣総理大臣という人ですね。
偉大な人物なんだろうなというのは想像に容易ですが……記述の少なさがなあ……
何より、この人の逸話が一切逸話に残らない辺り、呉の中に潜む闇を感じない気がしなくもない……
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略歴
孫邵は大柄な男性で、身の丈は八尺もあったと伝わっています。
まず地元・青州を治めていた孔融(コウユウ)に仕え、「朝廷で使えるべき逸材だ」と絶賛されています。
その後どういうわけか、おなじ青州出身で揚州刺史(ヨウシュウシシ)に任命された劉繇(リュウヨウ)に引っ付いて、はるばる揚州に移住。
孔融との間に何があったのかは不明ですが……孔融に将来性を感じなかったのか、はたまた青州は黄巾軍の本拠の一つですし、荒れているのを嫌がって逃げただけか……
ともあれこうして南東の揚州の地に居ついた孫邵は、しばらく史書からフェードアウト。
劉繇を倒して江東の主となった孫策(ソンサク)……を飛ばし、その弟であり次の当主となった孫権(ソンケン)の元で再び史書に姿を見せます。
孫邵はこの時孫権のブレーンとして、曹操が掌中に収める朝廷への融和策を提案。孫権はこれをすぐに承諾して、朝廷に対する貢物と使者を遣わすことで、朝廷への忠義を示すように動きます。
その後もしばしば外交政策を献じ、廬江太守(ロコウタイシュ)、車騎将軍長史(シャキショウグンチョウシ:皇族や外戚が務める将軍職の属官)に任命され、その後再びフェードアウト。
その後孫権が驃騎将軍(ヒョウキショウグン:車騎将軍と同格程度の超大物将軍位)に就くと、孫策以来の重臣である張昭(チョウショウ)や鄭札(テイサツ)らと共に儀礼の制定に着手。
当時の儀礼はかなり重要視されていた点、そして記述がない鄭札はともかく、同じ仕事に就いた張昭は孫権軍でも圧倒的な信望を得ていた点を考慮すると、この時点ではすでに呉の重臣の一人と言っても過言ではないのかもしれません。
そして黄武元年には、周囲から圧倒的な声望を集めていた張昭を押しのけ、見事に丞相の座に就任。
一時期は名士トップグループの一人である張温(チョウオン)、人物批判大好き人間である曁豔(キエン)らが孫邵を讒言し、孫邵本人も思うところがあったのか辞意を表明するという事件が発生しましたが、孫権は構わず彼を許し、また元のポストに落ち着いたという話もあります。
さて、そんな孫邵も黄武5年(225)に死去。
跡を継いだのは張温らと同じ「呉の四姓」と言われる名門中の名門・顧家の出である顧雍(コヨウ)でした。
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独自の伝が載らず、逸話ない理由とは?
さて、ご覧の通り、外様の名士(憶測)でありながらも、見事に呉の初代丞相に任命した孫邵。
言い方は悪いですが……仮に彼がどれだけの無能でどれほど利己的かつ最低な性格をしていたとしても、これほどの人物ならば何かしらの逸話が残るのが普通です。
にもかかわらず、事績は飛び飛びでほとんど何をしていたかもわからず、なんか外交政策とかいろいろやっていたらぽっと出で丞相のポストに立った孫邵。
しかも事績のほとんどは、裴松之の注釈によってようやく賄われている始末で、そもそも名前の表記も異なっている場合すらあります。
で、三国のうち一国の宰相ともあろう人物に伝が立てられていない理由については歴史家の中でもある程度見解があります。
例えば有名なのは、『志林』における劉声叔という人の憶測。
「孫邵は呉の四姓の一人・張温とは折り合いが悪かった。三国志で呉の記述を述べた呉書を編纂したのは、その張温のシンパだった韋昭(イショウ)である。おおよそ、嫌いだからあえて記述をしなかったのだろう」
ふむふむ……む?←
ちなみにこの憶測には『二十二史箚記』という書物でも同意を受けていますが……
正直、嫌いなら嘘記述散々たらし込んで、「こんなクソが上に立ってるんだから世も末だよな!」とかやっちゃった方が早いと思うんですよね。
ちなみに韋昭という人はこれまた硬派な人物で、嫌いな人間の負の記述を一部でっちあげるくらいはするでしょうが、歴史家として存在を完全無視するようなアホなことをする人間かと言われると……うーん……
とはいえ、周囲による異常な張昭(外様名士ながら土着派)推しといい、張温の讒言や、その張温を「無類の人」と称した顧雍が次の丞相に立ったことと言い……やはり孫呉は名士層の苛烈な闘争が他の国より明白で、かつ激しいのは否定できないかも……
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