歩夫人(練師)
生没年:?~赤烏元年(238)
所属:呉
生まれ:徐州臨淮郡淮陰県
歩夫人(ホフジン)、または練師(レンシ)。歴史書においてはほとんど名が上がらない女性の中では比較的キャラ立ちさせやすい人物という事で、三国志系のゲームにも意外と出番は少なくない人物ですね。
……といっても、やはり戦争したり策略を用いたりといったこともないので、王異(オウイ)なんかと比べると知名度はまだまだといったところですが……
ともあれ、孫権(ソンケン)の寵愛を受けた歩夫人の存在は、確かに呉の宮中ではかなり大きいものだったのは間違いありません。
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実質皇后でいいんじゃね?
さて、この歩夫人という女性、実は後々呉の丞相にまで上り詰めた歩隲(ホシツ)の血縁者でした。
しかし、大乱によって幼い頃は結構な苦労をしていたようで、母親は曹操(ソウソウ)、そして孫権の兄・孫策(ソンサク)の侵攻を受けて2度も一家での移住を余儀なくされています。
しかしいつしか歩夫人は美しい女性に育ち、孫権に惚れられて後宮入りを果たし、最終的には孫権の娘を2人生み落とします。
歩夫人の立場はあくまで側室でしたが、孫権からの寵愛は随一。孫権が呉王になった時には、血筋からして最有力候補の徐夫人(ジョフジン)を抑え、孫権は歩夫人を皇后に選ぼうとしたほどに愛されていました。
しかしまあ結局は臣下に猛反対されたらしく、なんと孫権は皇后不在のまま決着を付けずに問題を放置。10年もの間皇后を指名せずに歩夫人を寵愛し、宮中では最終的に歩夫人=皇后という暗黙の了解が出来上がったのでした。
こうして実質的に皇后同然となった歩夫人でしたが、赤烏元年(238)に病気で死去。孫権は彼女を死をもって皇后を取り決めることを決定し、そのまま亡くなった歩夫人を強引に皇后にまで押し上げたのでした。
この時に孫権は追悼の言葉を残していますが……それは最後に回しましょう。
性格:そりゃ好かれるよ……
さて、三国志本文には歩夫人の性格について言及された一文もあり、そこには以下のように書かれています。
嫉妬知らずの性格で、しばしば後宮の他の女性たちに対しても後ろ盾として働いた。だからこそ、孫権に長く愛されたのである。
特に孫権の寵愛に調子に乗って何かをしたとか、皇后の地位欲しさに何かアクションを起こしたわけでもない。それどころか「後ろ盾となった」ということは、他の夫人を皇后にするつもりだったとも取れます。
捻くれた私からすると「実は母を追い詰めた孫策の弟である孫権に内心複雑な心情を抱いていた」とか、そういう解釈もしたくなりますが……まあなんにしても、他の側室からも実質的に皇后として認められたのは事実。
孫権の後宮は、嫉妬深い上に周囲の支持を得た正室の徐夫人や「陰険で嫉妬深い」と史書にすら書かれる潘夫人(ハンフジン)など、性格に問題のある大変個性豊かな女性の集まる魔境の大奥。
そんな中で、第一夫人を押しのけて皇后とされるのですから、まず間違いなく相当な人物ではないでしょうか。
ちなみに娘は後々大乱の中心人物となる孫魯班(ソンロハン)と孫魯育(ソンロイク)。隣にいる夫人たちも強烈なら、娘たちも強烈だったのでした。
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孫権からの追悼の言葉
今思えば、あなたこそが我が覇業を支える補佐者であり、二人して天地の秩序に慎み従ってきた。
あなたは日夜敬虔に務めて私と苦労を共にし、夫人としての在り方を修められ、礼の根本に違うことなく、心はひろく思いやり深く、貞淑の徳をしっかり身に着けておられた。
臣下も民衆も皆あなたを仰ぎ見て、遠方の者や弱者でさえ、あなたに心を寄せた。
私はまだ天下が治まらないことから、あなたの御心に沿って謙譲を旨とし、それ故に急いで皇后を取り決めることはしなかった。だが、それはあなたが長寿を得て末永く付き添っていけると考えていたからだ。
だが、あなたは思いがけずも世を去られ、その命は決して長いものではなかった。
あなたに皇后の位を与えたいという正直な気持ちを明かさなかったことを心残りに思い、また天の授けた幸運を十分に享受されることが無かったことを悲しみ、深い哀惜の念は我が心を痛ましめる。
かくして、孫権は歩夫人に皇后の位と練師という諡号を追贈し、彼女を送り出しました。
また、後年孫権が死去した時は、歩夫人も墓を移されて孫権と合葬という形になったのでした。
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