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谷利

 

 

生没年:?~?

 

所属:呉

 

生まれ:?

 

 

 

谷利(コクリ)。合肥の戦いで窮地に陥った孫権(ソンケン)が脱出するときに活躍した……のですが、伝が立つどころか三国志本文にその名前は無し。もっぱら記述があるのは裴松之により注釈として追記された『江表伝』のみという人物です。

 

というのも、この人の立ち位置は武将や将帥でなく親衛隊長。典韋(テンイ)や許褚(キョチョ)に近い役回りですが、あちらと違って軍を率いたという話も聞きません。

 

 

今回は、そんな謎多き人物、谷利について記述を追っていきましょう。

 

 

 

 

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合肥でのファインプレー

 

 

 

谷利が登場するのは、合肥の戦いのとき。

 

この戦い、数こそは孫権軍が圧倒していたのですが、敵将・張遼(チョウリョウ)を始めとした魏軍の激しい抵抗により全軍の統制が取れず、混乱状態に陥ってしまいました。

 

 

この時の張遼の勢いは圧倒的で、立ちはだかる圧倒的多数の孫権軍を粉砕。少数の兵力とは思えない勢いで本陣に向かっていき、ついには孫権自身も命の危険にさらされてしまったのです。

 

さらに運が悪いことに、川を渡ってきた孫権は渡しとして掛けていた橋を撤去してしまい。どこにも退路はありませんでした。

 

 

そんな時、孫権の後ろに谷利が控えていたのですが……逃げ延びる方策を思いつき、一か八かで実行に移すことにしたのです。

 

 

「殿、手綱を緩め、鞍にしっかりと掴まっていてください」

 

 

そう言い放つが先か、谷利は孫権が載る馬の尻を鞭で殴打。驚いて勢いづいた馬は一直線に全力疾走すると、そのまま崖をジャンプ。

 

孫権が乗っていた馬が駿馬だったのもあり、崖を飛び越えて安全地帯に脱出するという無茶を成し遂げたのでした。

 

 

孫権は自身の命を救ってくれた谷利に大いに感謝し、なんと1親衛隊長にもかかわらず、都亭侯(トテイコウ)の爵位と領地を与えられることになったのだとか。

 

 

 

 

 

 

君主の命のために

 

 

 

メディアに登場する孫権は慎重派で非常に大人しい人物であることが多いのですが、正史の彼は一味違います。

 

悪ふざけと無茶が大好きで、たびたび無茶苦茶な行動をしては家臣に怒られるような人だったのです。

 

 

さて、黄武5年(227)のある日のこと。孫権が完成を楽しみにしていた大型船が、ついに艤装を完成させていつでも出航可能な状態になった時の事。

 

孫権はこの船を『長安』と名付け、そのまま進水式を行うことになりました。

 

しかし、長安が出航してしばらくした時の事。それまでご機嫌だった長江が突然機嫌を損ね、長安は激しい強風にさらされてしまったのです。

 

 

谷利は近くの港に戻るよう周囲に指示を出しましたが、当の孫権はご機嫌なまま、「構わん! このまま当初の目標まで突き進むぞ!」と言い出す始末。

 

結局どっちの指示に従うべきか迷って混乱し始める船内。その時、谷利は突如として剣を抜き、船頭にそれを突きつけて周囲に声を張り上げたのです。

 

 

「最寄りの港に戻れ! 従わない者は斬る!」

 

 

騒然としながらも、大型船長安は結局近くの港に寄港。後に風がさらに強くなり、航行不可能となって長安はそのまま元の港に帰ることになったのでした。

 

そんな一連を見ていた孫権は何かを面白おかしく思ったのか、谷利におふざけ半分に詰め寄ります。

 

 

「おいおい利ちゃんよ、水がそんなに怖いとか憶病すぎじゃんよ?」

 

 

対して谷利は、その場にひざまずき、孫権のからかいに対して答えます。

 

 

「殿はこの呉王国の主でいらっしゃるのです。こんなお遊びで万一命を落としてしまわれるようなことがあれば、国はどうなるのですか。それを考えたため、こうして死罪を覚悟で無理矢理お止めしたのです」

 

 

この返答を聞いた孫権は、谷利を以後、さらに信頼。苗字の「谷」と呼ぶようになり、谷利の君主からの寵愛はさらに強くなったのです。

 

 

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結局何者?

 

 

 

谷利は孫権の側仕えとして主君に尽くし、その態度は謹厳実直そのもの。いい加減なことを言わず一本気であるのを気に入られ、そのまま親衛隊長に任命されたと言われています。

 

 

また、谷利という名にも諸説あり、何でも「谷利」というのが実名でないという話も……

 

出自に関しても謎が多く、一説には解放奴隷の出だったとか何とか。

 

 

 

ともあれ、どれほどの功績があれども所詮は孫権の親衛隊長。伝が残るどころか三国志の本文にも姿が見えず、何とも残念なところではあります。

 

 

もし都亭侯の爵位と共に何かしらの武官としての官職が与えられていたら、許褚や典韋ほどでないにしろ、それなりの活躍を……というのは考えすぎでしょうか。

 

何にせよ、孫権の命の恩人でありながらよくわからない人物というのは、一種のロマンを感じます。

 

 

 

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