人物評
正史三国志を編纂した陳寿は、袁紹をこう評しています。
威厳に満ちて度量見識があり、非常に評判の高い人物。黄河の北にて勢力を振るった群雄である。
しかし、寛大なのは見てくれだけで猜疑心が強く、謀略を好んでも決断力がなかった。そのため良い家臣を抱えてもその能力を活かしきれず、礼節を顧みずに嫡子を冷遇し後継者争いを引き起こした。彼の死後の不幸は、決して運のなさだけに起因するものではない。
一応補足しておきますと、正史自体は魏の後継者という立場を持った晋の国によって検閲された書物なため、魏に敵対した面々にはどうしても評価にマイナス補正がかけられてしまいます。
こと呉や他勢力に関してはその傾向が強く、袁紹の評もそんな国際事情のあおりを受けたという見方もできます。
……が、あえて全部鵜呑みにして考えてみますと、やはり後継者争いで勢力を潰し、すべてを犠牲にしてしまったのが評価査定に大きく響いていると見てもいいでしょうね。
こと晩年に関して言えば、これまで厚遇し続けていた沮授の進言を急に無視するようになったり、官渡の敗戦後に能臣と言える田豊を殺害したりと、このような評価を受ける証拠は少なくないです。
特にアレなのが、臣下の中でも特に頭一つ抜けていた郭図(カクト)と逢紀(ホウキ)の存在。
この二人に関してもろくな記述がなく、郭図は言うことすべてが裏目に出る、通称「出ると負け軍師」、逢紀に関しても主な記述が讒言ばかりと、とてもではありませんがまともに評価を受ける土台が現在には残っていません。
こういった、「本当に寵愛した臣下にはマイナス評価が与えられる」といった属性も、袁紹が無能であるかのような評論を加速させているのかもしれませんね。
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本当に無能なのか
さて、ではこれら正史の記述や校正多くの人に言われている評価を元に、本当に袁紹が無能だったのかと言われますと……
焦げまんじゅう的には、かなり傑出した人物だったと定義したいところ。
というのも、まず統治能力に関してですが、「百年後にも袁紹の統治を懐かしむ民がいた」という記述も残っており、人材運用はともかく領内の政治に関しては群を抜いた力量を示していたと見るべきでしょう。
また、汚点になりがちの官渡の戦いですが、元々の戦力差があるとはいえあの曹操を相手に決戦で勝利し城に閉じ込める等、決して無様な戦いっぷりではありませんでした。
他にも曹操によって応戦されてしまったものの攻城櫓や地下道によるモグラ戦法などあらゆる手段を使って曹操を追い詰めており、勝利まであと一歩まで追い込んでいたのは明らかと言えるでしょう。
まかり間違っても、あの一戦で破れたからと言って無能であるとは思えません。結局、敗北したのは許攸とかいうクソ強欲野郎のせい。
また、『英雄記』にある界橋の戦いでの不退転の決意を見ても、優柔不断で覇気がないとは少し思えない気がします。
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とんでもないタカ派
また、袁紹は実はとんでもないタカ派の人物だったのでは……とも思えてきますね。
というのも、宦官に何進が殺されたときの弔い合戦に関しても、あたかも一連の流れを予見していたかのごとき素早い動きで宮廷に殴り込み、宦官と思しき人物を片っ端から殺して回るというとんでもないことをやってのけました。どこが優柔不断か
そして、挙句の果てには劉虞という皇帝血族者を使い、過去董卓がしでかした皇帝の勝手な擁立をやってのけようと計画して実行間近にまで迫る等、その姿は優柔不断どころかタカ派のヤバいテロリストそのものです。
となると、官渡の戦いや後継者争いに関しても、なんとなーく袁紹なりの理由があるような気がしてならないとも……。
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すこーしだけ入り込んだ話をすると……ぶっちゃけ、冀州と潁川の名士層での派閥争いでもあったんじゃないかと私は予想しています。
行動の結果だけ見ると、袁紹は特に冀州の面々に対しては使い捨てのような人材活用法をしているような……?
最期まで重用した郭図や逢紀は外部出身者ですし(冀州出身なのに重用された審配は知らん)、後継者争いの時に袁譚について行った人の中には、意外と潁川はじめ冀州の外部の人物が多いのが気にかかります。
麹義を「調子に乗っているから」と処刑し、あれだけ重宝した沮授の意見を途中から無視し、張郃に無茶ぶりして降伏に追い込み、戦いに参加していない田豊を敗戦にかこつけて処刑……
これだけ、冀州の著名人らが追いやられているのを見ていると、私の陰謀論センサーがどうにもうずいてきます。
もしかしたら袁紹は袁譚を後継者に決めておきながら、躍進を図る冀州閥が邪魔をしてきた可能性もあったのではないだろうか……?
もっとも、その袁譚も何だかんだダメっぽい人のオーラが出てるし、冀州閥に助けてもらえないなら曹操に勝つとかムリゲーだったでしょうが(゚∀゚)←
ともあれ、無能なボンボンとされる袁紹にも、これだけいろいろと再評価の材料はあるってことですね。ふむ、いろいろ見てみるとなかなかに興味深い人物……